2026/05/24
「同一労働同一賃金って、もう対応済みじゃないの?」
そう思った経営者・人事担当者の方、ちょっとお待ちください。
実は、令和8年(2026年)10月1日から、同一労働同一賃金の制度が大きくアップデートされます。2026年4月28日付の官報で、改正省令・告示が正式に公布されました。施行まで残された準備期間は、もうそれほど多くありません。
「うちはパートさんも有期雇用の方もいるから関係あるけど、何をどうすればいいの?」
そんな疑問にお答えするため、このコラムでは、
を、できるだけわかりやすく解説していきます。
同一労働同一賃金とは、ざっくり言うと
「同じ会社の中で、正社員とパート・有期雇用・派遣の人との間に、不合理な待遇差を設けてはいけませんよ」
というルールです。働き方改革関連法の一環として、大企業は2020年4月から、中小企業は2021年4月から施行されてきました。
ここでポイントなのは、「待遇差そのものがダメ」というわけではないこと。業務内容や責任の重さ、配置転換の範囲などに違いがあれば、待遇に差があっても問題ありません。ただし——
「なぜその差があるのか、ちゃんと説明できますか?」
ここが問われているわけです。
施行から約5年が経ち、最高裁の判決もいくつも積み重なってきました。それらを踏まえて、今回ガイドラインや関係省令が大きく見直されることになりました。ポイントは大きく3つです。
これが、実務へのインパクトが一番大きい改正かもしれません。
令和8年10月1日以降、新たにパート・有期雇用労働者を雇い入れる時、これまでの明示事項(昇給の有無、退職手当の有無、賞与の有無、相談窓口)に加えて、新たに次の項目を明示することが義務付けられます。
「待遇の相違の内容・理由等に関する説明を求めることができる旨」
厚生労働省のパンフレットには、労働条件通知書の具体的な記載例が示されています。
次の窓口に対して通常の労働者との間の待遇の相違(内容・理由)等について説明を求めることができる。
部署名:______ 担当者職氏名:______ (連絡先:______)
このように、「どこに」「誰に」聞けばいいのかまで明示する必要があります。「通常の労働者」の部分は、自社での呼称(「正社員」など)に置き換えてもOKです。
⚠️ これに違反した場合は10万円以下の過料が科されることもあります。「うっかり書き忘れた」では済まされません。
💡 改正後のモデル労働条件通知書は、厚生労働省が公表しています。下記からダウンロードして、自社のテンプレートをアップデートしておきましょう。
👉 厚生労働省「モデル労働条件通知書」(PDF)
👉 Word版はこちら
「同一労働同一賃金ガイドライン」は、企業がどんな待遇差なら不合理になるのか、判断のよりどころとなる指針です。今回、ここ数年の最高裁判決の内容が盛り込まれ、判断基準がより明確になりました。
厚生労働省パンフレットで新たに明記された、注目の項目を一つずつ見ていきましょう。
賞与・退職手当には「労務の対価の後払い」「功労報償」など、さまざまな目的が含まれます。これらの目的が当てはまるのに、パート・有期雇用労働者に対して、職務内容等の違いに応じた均衡のとれた支給がない場合、不合理と認められる可能性があります。
👉 点検ポイント:自社の賞与・退職手当の「目的」は何か? その目的がパート・有期の方にも当てはまるなら、支給要件が働き方や役割の違いに応じてバランスがとれているかチェックしましょう。
正社員と業務内容が同一のパート・有期雇用労働者には、正社員と同一の無事故手当を支給しなければなりません。
労働契約の更新を繰り返している等、相応に継続的な勤務が見込まれるパート・有期雇用労働者には、正社員と同一の家族手当を支給しなければなりません。
住宅手当が「転居を伴う配置の変更の有無に応じて支給されるもの」である場合、正社員と同一の転居を伴う配置の変更があるパート・有期雇用労働者には、正社員と同一の住宅手当を支給しなければなりません。
福利厚生施設の料金・割引率等の利用条件についても、不合理と認められる待遇差を設けてはいけません。
正社員に病気休職期間中の給与保障を行う場合、相応に継続的な勤務が見込まれるパート・有期雇用労働者にも、正社員と同一の給与保障を行わなければなりません。
パート・有期雇用労働者にも、正社員と同一の夏季冬季休暇を付与しなければなりません。
褒賞が「一定の期間勤続した労働者に付与するもの」である場合、正社員と同一の期間勤続したパート・有期雇用労働者にも、同一の褒賞を付与しなければなりません。
これらの判断には、過去の最高裁判決(ハマキョウレックス事件、長澤運輸事件、メトロコマース事件、日本郵便事件、大阪医科薬科大学事件など)の考え方が反映されています。
雇用管理指針も改正され、企業として工夫すべきポイントがより明確になりました。主な内容はこちらです。
労働者から待遇差について説明を求められた場合、次のいずれかの方法で説明する必要があります。
口頭説明の場合でも、説明に使った資料を交付することが望ましいとされています。また、説明の求めがない場合でも、労働契約の更新時などに、待遇差の内容・理由に関する分かりやすい資料を交付することが望ましいとされています。
「正社員とパートで差があるなら、正社員の家族手当を廃止すれば格差はなくなるよね?」
——いいえ、それはダメです。
厚労省パンフレットでも明記されていますが、待遇差の解消は、正社員の労働条件を不利益に変更するのではなく、パート・有期雇用労働者の労働条件の改善を図ることが求められます。
定年後に継続雇用された有期雇用労働者と正社員との待遇差も、「定年後再雇用だから」というだけで直ちに不合理ではないと認められるわけではありません。それぞれの待遇の性質・目的に照らして判断されます。
「正社員人材の確保や定着を図るため」という目的があっても、それだけで待遇差が合理化されるわけではありません。待遇の他の性質・目的にも照らして判断されます。
有期雇用から無期雇用に転換した後の労働条件を決める際には、あらかじめ正社員との待遇差を点検し、不合理な差は確実に解消することが求められます。「多様な正社員」を導入している企業も同様です。
施行日まで、残された時間は約4〜5か月(2026年5月時点)。慌てないために、いま着手しておきたいことを順番にまとめました。
新しい明示事項(「説明を求めることができる旨」と説明窓口の部署名・担当者名・連絡先)を盛り込みます。厚労省のモデル労働条件通知書を参考に、自社のテンプレートをアップデートしましょう。
正社員とパート・有期雇用の方との間で、
それぞれについて、「どんな差があるか」「なぜその差があるか(目的は何か)」を整理します。
労働者から「なんで私には住宅手当がないんですか?」と聞かれたときに、
を、客観的に説明できる資料を用意しておきましょう。「なんとなく」「昔からそうだから」では通用しません。
待遇差の根拠が、就業規則や賃金規程にきちんと書かれているか確認します。書かれていない、または曖昧な場合は、改定が必要です。
法律上、新たな明示義務の対象は「令和8年10月1日以降に雇い入れる人」です。ただし、厚労省パンフレットでも示されているとおり、労働契約の更新時等に、既存従業員にも待遇差の内容・理由に関する分かりやすい資料を交付することが望ましいとされています。
「制度がこう変わったので、もし疑問があれば説明しますね」と一声かけておくと、トラブル予防になります。
次のような会社は、今回の改正の影響が大きいと考えられます。早めの対応をおすすめします。
正直に申し上げると、今回の改正対応はそれなりに手間がかかります。「また法改正かよ…」と思った方もいらっしゃるでしょう。
でも、視点を変えてみてください。
従業員に「なぜこの待遇なのか」をきちんと説明できる会社は、それだけで信頼される会社です。人手不足が深刻化するなか、「ここで働き続けたい」と思ってもらえる職場づくりは、企業の競争力そのものになります。
今回の改正対応は、単なる法律対応ではなく、自社の人事制度を見直す絶好のチャンスです。
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 施行日 | 令和8年(2026年)10月1日 |
| 主な改正 | ①雇入れ時の明示事項追加、②ガイドライン改正、③雇用管理指針改正 |
| 対象 | 短時間労働者・有期雇用労働者・派遣労働者 |
| 違反時のペナルティ | 明示義務違反は10万円以下の過料 |
| 特に注意 | 家族手当・住宅手当・退職手当・賞与・夏季冬季休暇・病気休職 など/正社員の待遇引下げによる格差是正はNG |
| 今やること | 労働条件通知書見直し → 待遇差の棚卸し → 説明資料整備 → 規程改定 |
「自社の現状で、何から手をつければいいか分からない」
「待遇差の根拠を整理したいけど、自社だけでは不安」
「就業規則や賃金規程の見直しを手伝ってほしい」
「労働条件通知書のフォーマット改訂を任せたい」
そんなお悩みがあれば、ぜひTOMOE社会保険労務士事務所にご相談ください。栃木県小山市を拠点に、経営者の労務課題に迅速にお応えしています。御社の実情に合わせて、丁寧に伴走させていただきます。
施行日まで残り時間が限られています。早めの準備が、いちばんの安心材料です。
※本記事は2026年5月時点の情報をもとに作成しています。最新の情報は厚生労働省ホームページをご確認ください。