2026/06/05
「うちは社員30人くらいだから、ストレスチェックって関係ないよね?」そんな声をよく聞きます。
たしかにこれまでは、ストレスチェックの実施が義務だったのは「常時50人以上の労働者を使用する事業場」だけでした。50人未満の小規模事業場は「努力義務」だったため、実施していない会社も多かったのが実情です。
ところが——そのルールが、もうすぐ大きく変わります。
📌 改正のポイント
2025年5月14日に公布された改正労働安全衛生法により、50人未満の小規模事業場でもストレスチェックの実施が「義務」になります。
施行日:令和10年(2028年)4月1日
最初のストレスチェック完了期限:令和11年(2029年)3月31日
「2028年なら、まだ先の話でしょ?」と思った方、ちょっとお待ちください。準備にはそれなりに時間がかかります。委託先選び、社内ルールづくり、産業医との連携…やることは意外と多いんです。
このコラムでは、以下のポイントをわかりやすく解説していきます。
ストレスチェックとは、ざっくり言うと「従業員のストレス状況を、定期的にチェックする検査」のことです。健康診断の「こころ版」とイメージするとわかりやすいかもしれません。
労働安全衛生法第66条の10に基づき、平成27年(2015年)12月から制度がスタートしました。目的はメンタルヘルス不調の「未然防止」。つまり、「不調になってから治す」のではなく、「不調になる前に気づく」ための仕組みです。
主な流れは次のとおりです。
「うちみたいな小さな会社で、本当に必要?」と思われるかもしれません。でも、データを見ると話が変わります。
事業場の規模によって、メンタルヘルス対策に大きな差が生まれてしまっているのです。
仕事のストレスが原因とされる精神障害の労災支給決定件数は、令和5年度に883件と過去最多を記録しました。しかも、小規模事業場でも多数発生しています。
つまり、「小さい会社だからメンタル不調が少ない」のではなく、「対策が遅れているから見えにくくなっている」だけなのです。こうした背景から、今回の法改正で事業場の規模にかかわらず、全企業でストレスチェックを義務化することになりました。
| 時期 | できごと/やること |
|---|---|
| 2025年5月14日 | 改正労働安全衛生法 公布 |
| 2026年2月25日 | 厚労省「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」公表 |
| 2028年4月1日 | 施行日(義務化スタート) |
| 2029年3月31日 | 最初のストレスチェック完了期限 |
準備期間は約2年。「まだ先」ではありません。今から動き始めるのがベストです。
ストレスチェックの対象となる「常時使用する労働者」は、定期健康診断と同じ基準です。
パートやアルバイトでも、上記の条件に当てはまれば対象になります。派遣労働者は派遣元が実施します。
💡 労基署への報告は不要
50人以上の事業場は労働基準監督署への報告が必要ですが、50人未満の事業場は報告義務はありません。ただし、未実施だと「安全配慮義務違反」と判断されるリスクがあるので、報告がないからといって油断は禁物です。
2026年2月25日に厚生労働省が公表した「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」では、具体的な進め方が詳しく示されています。要点を5つのステップで整理しました。
まずは経営者が「うちの会社でストレスチェックを導入します」と明確にメッセージを出すことから始まります。マニュアルには、従業員へのメッセージ例も載っています。
こうした安心材料を、はっきり伝えることが大事です。
実施体制や方法について、従業員の意見を聴く機会を設けます。50人未満の事業場では、衛生委員会のような会議体は必須ではないので、朝礼や定例ミーティングなどを活用すれば十分です。
次のような事項について、社内ルールとして文書化します。
マニュアルでは、50人未満の事業場は原則として外部機関への委託を推奨しています。理由は明快で、自社で実施するとこんな問題が起きるからです。
外部機関を選ぶときは、厚労省マニュアルの「サービス内容事前説明書」を提出してもらい、次の点を確認します。
⚠️ 注意
基本料金が安く見えても、オプションを足すと2〜3倍になるケースも珍しくありません。「総額でいくらか」を必ず確認しましょう。
準備が整ったら、いよいよ実施です。年1回、決まった時期に行います。
ここは、ぜひ知っておいていただきたいポイントです。
50人未満の事業場には、「地域産業保健センター」(通称:地産保)という強い味方がいます。厚生労働省所管の独立行政法人労働者健康安全機構が運営する支援機関で、全国に約350か所設置されています(おおむね労働基準監督署単位)。
地産保では、登録産業医による次のサービスが無料で受けられます。
「面接指導の医師を自社で確保するのは難しい…」とお悩みの小規模事業場には、まさに救世主のような制度です。
⚠️ 地産保ではストレスチェック自体は実施していません。
あくまで面接指導や意見聴取などの医師サービスに限られます。ストレスチェック本体は外部委託先で実施し、面接指導だけ地産保を使う、という使い分けが現実的です。
栃木県内の地産保情報は、栃木産業保健総合支援センターのホームページなどから検索できます。
「で、結局、就業規則はどうすればいいの?」というのが、いちばん気になるところですよね。
新しく別の規程を作る必要はありません。多くの場合、既存の就業規則(特に「安全衛生」や「健康管理」に関する章)に必要な事項を盛り込めば十分です。
ストレスチェック指針では、社内ルールとして定めておくことが望ましい事項として、たとえば次のような項目が挙げられています。
⚠️ 就業規則を変更した場合の手続き
常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の変更時に従業員代表の意見聴取と労働基準監督署への届出が必要です。10人未満の事業場では届出義務はありませんが、従業員への周知は必須です。
就業規則の改定は、自社の業種・規模・委託先の選定状況・面接指導の依頼先(地産保か外部機関か)など、さまざまな要素を踏まえてカスタマイズする必要があります。また、既存の就業規則との整合性、賃金規程や安全衛生関係規程との関連なども見直すべきポイントです。
こうした改定作業は、社会保険労務士にご相談いただくのが安心です。御社の実態に合わせた、運用しやすい規定をご提案できます。
ストレスチェックの個人結果は、本人の同意なく会社が取得することはできません。「健康情報」「要配慮個人情報」に該当するため、取り扱いは慎重に。封書で結果が届いた場合も、絶対に開封してはいけません。
面接指導を申し出たこと、ストレスチェックを受けなかったこと、結果の提供に同意しなかったこと。これらを理由に、配置転換・解雇・退職勧奨などを行うことは法律で禁止されています。
集団分析は、職場改善のヒントを得るための重要なステップ。ただし、10人未満の集団では原則として実施しないことになっています。少人数だと、回答内容から個人が特定される恐れがあるためです。
ややこしいのですが、労基署への報告義務の基準となる「常時使用している労働者」は、ストレスチェック対象者よりも広い概念です。短時間パートや派遣労働者も含めて常態的に50人以上いれば、報告義務が生じる可能性があります。「対象者は40人だから報告不要」と思い込まず、慎重に確認しましょう。
正直に言うと、ストレスチェックは「実施すること」自体が目的になってしまいがちです。「年1回、なんとなく配って、なんとなく回収して終わり」——これでは、せっかくの制度が宝の持ち腐れです。
でも、見方を変えてみてください。少人数の職場こそ、一人ひとりの存在感が大きく、一人の不調がチーム全体に響きます。だからこそ、メンタルヘルス対策は経営の中心課題です。
メンタル不調による休職は平均約3か月、復職後にまた休職する割合も約半数というデータがあります。少人数の職場で1人が長期休職すれば、現場への影響は計り知れません。
逆に、ストレスチェックをきっかけに職場改善が進めば、生産性の向上・人材の定着・採用力の強化といった、経営にプラスの効果が期待できます。義務化を「コスト」ではなく「投資」として捉えてみてはいかがでしょうか。
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 公布日 | 令和7年(2025年)5月14日 |
| 施行日 | 令和10年(2028年)4月1日 |
| 最初の実施期限 | 令和11年(2029年)3月31日まで |
| 対象 | 常時使用する労働者が50人未満の事業場 |
| 労基署への報告 | 不要(ただし常時使用50人以上の場合は要報告) |
| 実施方法 | 原則として外部機関への委託を推奨 |
| 面接指導 | 地域産業保健センター(地産保)で無料利用可能 |
| 今やること | 方針表明 → ルール作成 → 委託先選定 → 実施準備 |
「うちの規模で、何から始めればいいか分からない」「外部委託先の選び方や見積もりの見方を教えてほしい」「ストレスチェックに関する就業規則の見直しを手伝ってほしい」「地産保の活用方法を知りたい」
そんなお悩みがあれば、ぜひTOMOE社会保険労務士事務所にご相談ください。栃木県小山市を拠点に、歯科医院・クリニック・薬局など小規模事業場の労務課題にも数多く対応してきた実績があります。御社の実情に合わせて、丁寧に伴走させていただきます。
施行日まで残り約2年。準備期間に余裕がある今こそ、計画的に動き出すチャンスです。
※本記事は2026年6月時点の情報をもとに作成しています。最新の情報は厚生労働省ホームページをご確認ください。