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土曜日や連休前後に年休申請が集中したらどうする?「時季変更権」をめぐる実務対応

2026/06/14

土曜日や連休前後に年休申請が集中したらどうする?「時季変更権」をめぐる実務対応

「土曜日にまた3人も年休申請が…一番混む日なのに、誰がフォローするんだ?」

そんな悲鳴、医療機関ではよく聞きます。働き方改革で年休取得が当たり前になった今、土曜日や連休前後に年休申請が集中するのは、もはやどこのクリニック・歯科医院・薬局でも起こる現象です。

「全員に休まれたら診療が回らない…でも、年休を断ったら違法になっちゃう?」

そんなお悩みにお答えするために、このコラムでは、

  • そもそも年休は拒める?拒めない?
  • 「時季変更権」って何?どんなとき使える?
  • 土曜日や連休前後の集中申請、どう対応する?
  • 「土曜日は◯人まで」と先に決めておくのはアリ?

を、判例も踏まえながらわかりやすく解説していきます。

📌 結論を先に

「土曜日だから」という理由だけで年休を制限することはできません。ただし、合理的な人数制限を設けて、全スタッフに公平に運用するなら、時季変更権を行使する余地はあります。

まずおさえたい大原則:年休の理由は問えない

年次有給休暇の大原則は、「労働者が指定した時季に与えなければならない」こと。労働基準法第39条第5項に、はっきりとそう書かれています。

そして、年休をどう使うかは労働者の自由です。「旅行に行きたい」「家でゆっくりしたい」「子どもの行事で」——理由を聞いて、それで取得を認める・認めないを決めることは、原則としてできません。

「土曜日に休みたい」と言われたら、まずは素直に認めるのが基本です。

例外として認められる「時季変更権」

とはいえ、医療機関にも事情があります。「土曜日に全員休まれたら本当に診療が回らない」——そんなときのために、労働基準法は使用者に「時季変更権」を認めています。

条文を要約するとこんなイメージです。

労働者が請求してきた時季に年休を与えることが「事業の正常な運営を妨げる場合」は、使用者は他の時季に変更することができる。

ポイントは「他の時季に変更」できるだけで、「休ませない」ことはできないということ。年休そのものを拒否することはできないんですね。

「事業の正常な運営を妨げる場合」って具体的にどんなとき?

ここがいちばん難しいところです。「妨げる」かどうかの判断は、裁判例の積み重ねでこんな要素を見ることになっています。

  • 事業の規模・内容
  • そのスタッフの担当業務の内容・性質
  • 業務の繁閑
  • 代替要員の確保の難易度
  • 同じ時期に休暇を指定する他のスタッフの人数
  • 労働慣行

医療機関の場合、たとえば土曜日は外来患者が集中する看護師・歯科衛生士・薬剤師・歯科助手など有資格者や経験者を一定数確保する必要がある受付や医療事務に経験者が必要といった事情があれば、考慮要素になります。

そして、最高裁が繰り返し示している重要な原則があります。

💡 「通常の配慮」をしたか?がカギ

使用者は、労働者が指定した時季に休暇を取得できるよう、代替要員の確保など「通常の配慮」を尽くす義務があります。配慮もせずに「人がいないから変更」では認められません(最判昭62・7・10 弘前電報電話局事件)。

よくあるNG対応 ─ こんな時季変更権はNG!

❌ NG①:「土曜日は誰も休ませない」と一律で決める

「土曜日は忙しいから、原則として年休不可」というルールは違法の可能性が高いです。曜日だけを理由に取得を制限することはできません。これは土曜日に限らず、金曜日でも月曜日でも同じです。

❌ NG②:恒常的に人手不足なまま、代替要員も探さず変更

恒常的な人員不足を放置したまま、代替要員の確保努力もせず時季変更権を行使した事案で、「事業の正常な運営を妨げる場合に当たらない」として違法と判断された判例があります(金沢地判平8・4・18)。

「人がいないから」は理由になりません。「人を確保する努力をしたうえで、それでも無理なら」が条件です。

❌ NG③:理由を聞いて「そんな理由じゃダメ」と変更

「旅行ですか?じゃあダメです、別の日にしてください」——これもNG。利用目的によって時季変更権を使い分けることはできません。

じゃあ、こうしたい!土曜日や連休前後の集中、どう対応する?

「とはいえ、本当に全員に休まれたら診療が回らない…」

そんなときの合法的な対処法がこちらです。

✅ 対応①:合理的な人数制限を事前に設ける

「同日の年休取得は、◯職種で◯名まで」といった合理的な人数制限を、就業規則や院内ルールであらかじめ定めておく方法です。

ポイントは次の3つ。

  • すべての曜日に公平に適用されること(「土曜日だけ」はNG)
  • 業務量に見合った合理的な人数であること
  • 申請が重なった場合の優先順位ルールを決めておくこと(先着順、利用目的を踏まえた調整など)

✅ 対応②:早めに事前申請を促す運用

業務上の事情を伝えつつ、「できれば◯日前までに申請を」とお願いする運用は問題ありません。早めに把握できれば、代替要員の確保も時季変更権の検討もしやすくなります。

ただし、「◯日前までに申請がない場合は拒否」と完全に縛ることはできません(直前申請を理由に拒否することはできない、というのが原則です)。

✅ 対応③:「通常の配慮」を尽くしたうえで時季変更権

どうしても業務上回らない場合に時季変更権を行使するなら、以下の「通常の配慮」を尽くしてからにします。

  • 勤務シフトの変更を検討
  • 他のスタッフへの応援要請を検討
  • 代替要員の確保を検討
  • 業務の前倒し・後ろ倒しを検討

そのうえで「それでもなお業務に支障がある」場合に、初めて時季変更権を行使する——というのが裁判例の積み重ねが示す流れです。

時季変更権、いつ・どうやって行使する?

時季変更権を行使するなら、原則として年休開始前までに意思表示します。

形式は法律で決まっていませんが、口頭でも書面でもOK。ただし、就業規則で「書面で通知する」と決めている場合は、そのとおりにする必要があります。

💡 直前申請でも、適法に変更できる場合あり

「年休開始の直前すぎて、時季変更権を考える時間がなかった」——そんな場合は、年休開始後でも遅滞なく行使すれば適法と認められた判例があります(最判昭57・3・18 此花電報電話局事件)。

こんな職場は特に要注意

  • 少人数で密接に働く医療機関(クリニック、歯科医院、薬局など)
  • 土曜診療シフト勤務で代替要員の確保が難しい職場
  • 連休前後年末年始に診療が集中する職場
  • 就業規則に時季変更権や年休取得ルールが明記されていない職場
  • これまで「なんとなく」で年休を運用してきた職場

「断りたい」から「みんなが取れる」発想へ

時季変更権は、たしかに使用者の権利として認められています。でも、判例の流れを見ると、裁判所は「もっと配慮できたはず」という目線で厳しく判断しているのが分かります。

逆に言えば、普段から「みんなが年休を取れる体制」を作っておくことが、いちばんのトラブル予防になります。

  • 業務の見える化・標準化(その人しかできない仕事をなくす)
  • シフト管理ルールの整備
  • 計画的付与の活用
  • 就業規則への明確なルール記載

これができている職場は、「土曜に集中して困る」という事態自体が減ります

まとめ

論点 結論
年休を拒否できる? できない(時季変更権はあるが、変更のみ)
理由を聞いて判断できる? 原則できない(利用目的は問えない)
「土曜日は不可」と決められる? NG(曜日だけを理由に制限はできない)
人数制限を設けられる? 合理的な制限ならOK(全曜日に公平適用が条件)
時季変更権を使う条件 「通常の配慮」を尽くしてもなお業務に支障がある場合
いつ行使する? 原則として年休開始前まで(直前申請は例外あり)

ご相談はお気軽に

「年休が集中して診療が回らない、どう対応すればいい?」「就業規則に年休ルールを明記したい」「人数制限の合理性、自院の業務に照らしてどう設定すれば?」「時季変更権の行使を検討しているが、適法か不安」

そんなお悩みがあれば、ぜひTOMOE社会保険労務士事務所にご相談ください。栃木県小山市を拠点に、歯科医院・クリニック・薬局など医療機関の労務課題に数多く対応してきた実績があります。貴院・貴社の実情に合わせて、丁寧に伴走させていただきます。

年休をめぐるトラブルは、「事前のルール整備」でほとんどが防げます。早めの体制づくりをおすすめします。

📞 TOMOE社会保険労務士事務所へのお問い合わせはこちら

参考判例

  • 最判昭57・3・18 此花電報電話局事件(時季変更権の行使時期)
  • 最判昭62・7・10 弘前電報電話局事件(通常の配慮義務)
  • 最判平4・6・23 時事通信社事件(長期連続休暇)
  • 金沢地判平8・4・18(恒常的人員不足下の時季変更権は違法)
  • 名古屋高金沢支判平10・3・16 西日本ジェイアールバス事件

※本記事は2026年6月時点の情報をもとに作成しています。個別具体的な事案については、お気軽にご相談ください。