2026/10/08
「うちは小さい医院だから、面接は院長がひとりでやっているけど…それで何か問題ある?」
歯科衛生士や看護師、受付スタッフの募集をかけると、応募者が来院して院長先生と面接。気になる方には院内を案内して、日程の調整は院長先生のスマホからLINEで——。クリニックや歯科医院では、ごく当たり前の採用の風景ですよね。
実はこの「当たり前」に、2026年10月1日から新しいルールが加わりました。求職者等に対するセクシュアルハラスメント(求職者等セクハラ)対策の義務化です。「大企業の就活の話でしょ?」と思った方、ちょっとお待ちください。むしろ小さな医院ほど、見落としやすいポイントがあるんです。
最初にお伝えしておきたいのは、このコラムは院長先生を責めるためのものではない、ということです。実際のご相談でも、「そんなつもりはまったくなかった」「それがダメだとは知らなかった」という院長先生がほとんどです。そして、やってもいないのに誤解されてしまうのが怖い、という声もよく伺います。今回のルールは、応募者を守るのと同じくらい、院長先生ご自身を守るためのものでもあります。そんな視点で読んでいただけたらうれしいです。
📌 結論を先に
2026年(令和8年)10月1日から、応募者など「求職者等」へのセクハラを防ぐ措置が、規模を問わずすべての事業主の義務になりました。クリニック・歯科医院でやるべきことは、①「求職者等へのセクハラは許さない」方針を決めてスタッフに伝える、②応募者が相談できる窓口を決めて知らせる、③面接・職場見学・面接後の連絡のルールを決める、の3つが中心です。特に小さな医院では、面接する人と相談を受ける人が同じ「院長」になりがちなので、院長以外の相談先を用意しておくことが大切なポイントです。
結論から言うと、これまでスタッフ(雇っている労働者)が対象だったセクハラ防止の措置が、これから働くかもしれない人=応募者などにも広がりました。根拠は2025年(令和7年)6月11日に公布された改正男女雇用機会均等法で、2026年(令和8年)10月1日に施行されています。
具体的な中身は、2026年2月26日に公布された厚生労働省の指針(令和8年厚生労働省告示第52号)で示されています。カスハラ対策の義務化と同じ日のスタートなので、あわせて押さえておきたいところです。
医院でいえば、まず求人に応募してきた人、採用面接に来る人が当てはまります。指針では、採用面接のほか、就職説明会、社員への訪問、インターンシップ、教育実習・看護実習なども「求職活動等」の例として挙げられています。
ポイントは、オンラインや、医院の外で行われるものも含まれることです。オンライン面接や、LINEなどSNSでのやり取り、医院の外での面談も対象になりえます。
性的な言動によって、応募者の求職活動が妨げられるものが「求職者等セクハラ」です。同性に対する言動も含まれます。厚生労働省の資料では、たとえば次のような例が挙げられています。
💡 「軽い雑談のつもり」がいちばん危ない
面接の場をなごませようとして「彼氏はいるの?」「結婚の予定は?」と聞いてしまう——。悪気がなくても、応募者にとっては断りにくい立場で答えを迫られる質問です。セクハラになりうるうえ、恋人の有無や結婚・出産の予定は、厚生労働省が示す「公正な採用選考」の観点からも聞くべきではない事項です。
結論から言うと、小さな医院では面接する人・判断する人・相談を受ける人が、全部院長ひとりになりがちです。この構造のままだと、何かあったときに応募者が相談できる先が、事実上ありません。
大きな組織なら、人事部・面接官・相談窓口が分かれています。でもクリニックや歯科医院では、求人を出すのも、面接するのも、採否を決めるのも院長先生。応募者からすれば「面接で嫌な思いをしたけれど、それを伝える相手が面接した院長先生しかいない」という状態です。
正直に申し上げると、法律上の措置の対象は主に「医院が雇っているスタッフ」の言動です。ただ、小さな医院で面接に立つのはほとんどが院長先生ご自身。院長の言動で応募者とトラブルになれば、医院の評判や採用にそのまま跳ね返ります。だからこそ実務では、院長自身もルールの内側に入るのがいちばん安全です。
⚠️ 口コミ・SNSで広がるのは一瞬です
歯科衛生士や看護師の採用は、地域の学校や知り合いのつながり、口コミサイトの評判に大きく左右されます。面接で不快な思いをした応募者の声がSNSや口コミで広がれば、次の募集に応募が集まらなくなるおそれがあります。人手不足の医療機関にとって、これは診療体制そのものに関わるリスクです。
指針では、応募者との面談について、時間や場所、実施体制、やり取りに使うSNSの種類などのルールをあらかじめ定めて、スタッフと応募者に知らせる取組が示されています。医院の採用でいえば、次の3つの場面で決めておくと安心です。
面接はできるだけ2人で対応し、診療時間内か、ほかのスタッフがいる時間帯に、院内で行うのが基本です。院長と応募者が個室で2人きり、という形をつくらないだけで、トラブルの多くは防げます。
応募前後に院内を見てもらう職場見学は、歯科医院やクリニックでよく行われていますよね。案内役を決めて、見学中のスタッフとの雑談でも気をつけることを共有しておくのがポイントです。
指針の本文には「職場見学」という言葉そのものは出てきません。ただ、応募者が採用を考えて来院する見学は、採用活動の一場面です。面接と同じルールで備えておくのが安全です。見学のときには、応募者が院長以外のスタッフと話す機会も増えます。「どこから来たの?」「彼氏いる?」といった、スタッフの何気ない一言が問題になることもあるので、スタッフ全員に共有しておくことが大切です。
ここが、医院でいちばん見落とされやすいところです。結論は、応募者との連絡は医院のメールや電話、医院用のアカウントに一本化し、院長やスタッフの個人のLINE・携帯番号は使わないこと。
日程調整のつもりで個人のLINEを交換すると、夜遅くの連絡や、採用と関係のないやり取りに発展しやすくなります。指針でも、やり取りに使うSNSの種類を決めておくことが例として挙げられています。不採用の連絡や内定後の連絡も、同じ窓口から行うようにしておきましょう。
指針が事業主に求めている措置は、大きく4つです。小さな医院でも、次のように置き換えれば無理なく整えられます。
| 指針が求める措置 | 医院でいうと |
|---|---|
| ① 方針の明確化と周知・啓発 | 「応募者へのセクハラは許さない」「行った場合は厳正に対処する」ことをハラスメント防止規程や就業規則に入れ、朝礼などでスタッフに伝える |
| ② 相談体制の整備 | 応募者が相談できる窓口を決め、求人票・ホームページ・面接案内のメールなどで知らせる。院長以外の窓口(事務長や外部の専門家)を置くとより安心 |
| ③ 事後の迅速・適切な対応 | 相談があったら、応募者と行為者の双方から事実を聞き取り、被害者への配慮や行為者への措置、再発防止を行う |
| ④ あわせて講ずべき措置 | 相談者のプライバシーを守ること、相談や事実確認への協力を理由に不利益な扱いをしないことを決めて周知する |
💡 院長以外の相談先は「外部窓口」でもOK
小さな医院では、院長以外に相談を受けられるスタッフがいないことも多いですよね。その場合は、社会保険労務士などの外部の専門家に相談窓口を任せる方法があります。応募者にとっても「医院の外に相談できる先がある」ことが安心材料になり、スタッフのハラスメントやカスハラの相談窓口と一本化することもできます。
| 場面 | ❌ NG | ✅ OK |
|---|---|---|
| 面接 | 診療後の遅い時間に、院長室で院長と2人きり | 診療時間内に、主任など2人で対応 |
| 質問 | 「彼氏いるの?」「結婚の予定は?」 | 「希望の勤務日数・時間帯は?」など仕事に関わることだけ |
| 職場見学 | 案内役を決めず、手の空いたスタッフが雑談まじりに案内 | 案内役を決め、見学中の会話の注意点をスタッフ全員で共有 |
| 連絡 | 院長の個人LINEで日程調整し、そのまま雑談 | 医院のメール・電話・医院用アカウントに一本化 |
| 相談先 | 「何かあれば院長まで」だけ | 院長以外の窓口(事務長・外部の専門家)も案内する |
求職者等セクハラ対策は、院長先生を縛るための話ではありません。面接の形や連絡の方法がきちんと決まっている医院は、応募者から見ても「安心して働けそうな職場」に映ります。
歯科衛生士や看護師の採用がますます難しくなるなか、「面接の段階から誠実な医院」という印象は、それだけで大きな強みになります。面接の同席者を決める、連絡の窓口を一本化する——まずはできるところから、次の募集までに整えてみてはいかがでしょうか。
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 施行日 | 2026年(令和8年)10月1日(施行済み) |
| 対象 | 規模を問わず、すべての事業主(医療機関・介護施設も対象) |
| 守る相手 | 応募者・採用面接に来る人など「求職者等」(オンラインや院外でのやり取りも含む) |
| やるべきこと | 方針の明確化と周知/相談窓口の整備と応募者への周知/事後対応/プライバシー保護と不利益取扱いの禁止 |
| 医院で決めたいルール | 面接は2人・診療時間内・院内で/職場見学は案内役を決める/連絡は医院の窓口に一本化 |
| 小規模医院の注意点 | 面接官=院長=相談先になりがち。院長以外の相談先(外部窓口も可)を用意する |
はい。規模による例外はありません。スタッフを雇って採用活動を行うのであれば、医院の大小を問わず対象になります。
院長ひとりでの面接そのものが、ただちに違反になるわけではありません。ただ、トラブルを防ぎ、何かあったときに事実を確認しやすくするためにも、できるだけ2人で対応することをおすすめします。難しい場合は、ドアを開けておく、ほかのスタッフがいる時間帯に行うなどの工夫をしましょう。
求人票やホームページの採用ページ、面接案内のメールなどに、相談先の連絡先を一行添えるのが手軽です。院長以外の窓口(事務長や外部の専門家)を案内できると、応募者も相談しやすくなります。
はい、むしろ一緒に進めるのが効率的です。どちらも2026年10月1日から義務化されたもので、方針の周知や相談窓口、プライバシー保護など、整えるべき項目の多くが共通しています。ハラスメント防止規程の見直しも、まとめて行うと手間が省けます。
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📌 規程の見直しから外部相談窓口まで、まとめてサポートします
栃木県小山市を拠点に、歯科医院・クリニック・薬局など医療機関や介護施設の労務課題に数多く対応してきた実績をもとに、ハラスメント防止規程・就業規則の見直し、面接や採用連絡のルールづくり、院外の相談窓口のお引き受けまで、貴院の実情に合わせて丁寧に伴走させていただきます。カスハラ対策とあわせて、次の募集の前に整えておくのがいちばんの安心材料です。
※本記事は2026年10月時点の情報をもとに作成しています。最新の情報は厚生労働省ホームページをご確認ください。