2026/10/24
「子どもが小さいので、正社員に戻りたいけど夕方までしか働けないんです」
「優秀なパートさんがいるから、正社員にしてあげたい。でもフルタイムは無理と言われていて…」
こうしたご相談をきっかけに、「短時間正社員って制度があるらしいけど、うちも取り入れたほうがいいのかな?」と考える経営者の方が、ここ最近とても増えています。業種を問わず、当事務所にも導入のご相談が多いテーマです。
ただ、正直に申し上げると、「とりあえず始めてみよう」で走り出すと、かえって職場がギクシャクする制度でもあります。このコラムでは、メリット・デメリットから助成金、就業規則で決めておくべきことまで、実務目線でまとめました。
このコラムでわかること
📌 結論を先に
短時間正社員制度は、「優秀だけど長い時間は働けない人」を手放さないための、とても有効な仕組みです。一方で、仕事内容や責任をあいまいにしたまま始めると、「人件費は正社員並み、働き方はパート並み」という一番もったいない状態になりかねません。
導入するなら、勤務時間・仕事内容・責任・休日出勤や残業の有無・給与・賞与・転換のルールを、就業規則と労働契約書で先に決めてからスタートするのが鉄則です。助成金も使えますが、要件は年度ごとに変わるので「申請前の確認」が欠かせません。
短時間正社員とは、フルタイムの正社員より所定労働時間(または所定労働日数)が短い「正社員」のことです。厚生労働省は、次の2つにあてはまる人を短時間正社員としています。
つまり、「時間が短いだけで、時間あたりの処遇は正社員と同じ」というのが基本の考え方です。よく混同されるのが、パートさんと、育休明けなどで時短勤務をしている正社員です。
| 項目 | 短時間正社員 | 育児の短時間勤務中の正社員 | パート |
|---|---|---|---|
| 立場 | 短時間正社員という雇用区分 | 正社員のまま(一時的に時間を短縮) | パート(有期契約が多い) |
| 根拠 | 会社が任意に作る制度 | 育児・介護休業法で事業主に義務づけられた措置 | 個別の労働契約 |
| 期間 | 期間の定めなし(制度として継続) | 原則、子が3歳になるまで | 契約期間による |
| 処遇の考え方 | 時間あたりは正社員と同等 | 正社員の処遇が前提(短縮分の扱いは規程による) | 仕事内容・責任に応じて決める |
育児のための短時間勤務は、3歳未満の子を育てる労働者のために事業主が講じなければならない措置です(育児・介護休業法第23条第1項)。2025年10月からは、3歳から小学校入学前までの子を育てる人向けの「柔軟な働き方を実現するための措置」の選択肢の一つとして、短時間勤務を用意している職場もあります(同法第23条の3)。
ただ、どちらも「正社員のまま、一時的に勤務時間を短くしているだけ」です。短時間正社員という別の雇用形態に変わるわけではない、という点が後で大事になってきます。
最大のメリットは、フルタイムでは働けないけれど、能力も意欲も高い人材を、正社員として確保・定着させられることです。人手不足の今、これは採用面で大きな武器になります。
医療機関では、看護師・歯科衛生士・薬剤師・医療事務などの有資格者や経験者が、育児や介護で「フルタイムは無理だから」と退職してしまうケースが少なくありません。実際のご相談でも、「辞めてほしくない人ほど、時間の制約を抱えている」という声をよく伺います。
そこで、「午前診と午後診の一部だけ」「週4日」といった形で短時間正社員の枠を用意し、賞与や昇給のある正社員として残ってもらう。これを「優秀な人を囲い込むのにとても良い」と評価しているクリニックもあります。介護施設でも、日勤のみの短時間正社員枠を設けて、経験者を確保している例があります。
デメリットの核心は、制度設計があいまいだと、パートより高いコストを払っているのに、パートと同じ働き方しかしてもらえない状態に陥りやすいことです。加えて、管理の手間が増える点も見落とせません。
飲食店や小売など、土日や繁忙時間帯に人が必要な業種では、「正社員は土日・繁忙期に入れる人」という前提で回っていることが多いですよね。そこに、賞与もあって人件費は高めなのに「土日は出たくない」「夜は無理」という短時間正社員がいると、現場はかえって回しにくくなります。
実際に、「中途半端な立場の人がいるくらいなら、パートで時間を組んだほうがいい」という結論になるお店もあります。これは制度が悪いのではなく、「その職場で正社員に期待する役割」と短時間正社員の働き方が合っていないのが原因です。
判断の分かれ目は、「時間は短くても、正社員としての役割・責任を任せたい人がいるか」です。単に「時間の短い人を厚遇したい」だけなら、パートの処遇改善のほうが合っている場合もあります。
| 導入が向いている職場 | 慎重に考えたい職場 |
|---|---|
| 専門職・経験者の確保が難しい(医療機関・介護施設・士業・技術職など) | 正社員に土日・夜間・繁忙期の対応を強く期待している |
| 時間帯で区切れる業務(午前担当、受付、事務処理など)がある | 短時間でも任せられる「正社員の仕事」が切り出せない |
| 育児・介護での退職が続いている | パートとの役割の違いを説明できない |
| 評価・賃金のルールがある程度整っている | 正社員の賃金ルール自体があいまいなまま |
正社員・短時間正社員・パートが同じ職場にいる場合、短時間正社員の扱いを最初に決めておかないと、次のようなトラブルが起きやすくなります。いずれも、実際のご相談でよく伺うパターンです。
「あの人は早く帰れるのに、給与は同じなんでしょ?」と誤解されてしまうケースです。時間比例で給与が決まっていることや、任せている役割が説明されていないと、不満が人間関係のトラブルに発展しがちです。
家庭を優先できて、給与や保険も手厚い。パートさんから見ると、短時間正社員は「いいとこ取り」に見えやすいものです。誰が、どんな条件で短時間正社員になれるのか(転換のルール)を決めておかないと、断る理由を説明できなくなってしまいます。
先ほどの表のとおり、育休明けの短時間勤務は法律で決まった子育て中の措置で、原則として子が3歳になるまでの一時的なものです。その間も立場は「正社員」のままで、仕事内容や責任、子が3歳になったらフルタイムに戻ることなどは、正社員としての扱いが前提になります。
ここを整理しておかないと、「ずっとこの時間で働けると思っていた」「短時間正社員の人と同じ仕事量でいいはず」といった行き違いが起こります。
本人は責任や業務量がパート並みのつもりでいる一方、給与や賞与はある程度高い。土日出勤をお願いしても出てもらえない…。これが、デメリットの章でお話しした「人件費は正社員並み、働き方はパート並み」の状態です。
⚠️ 4つとも、原因は「決めていないこと」です
どのトラブルも、制度そのものではなく、雇用形態ごとの違いが書面で決まっていないことから起きています。逆に言えば、スタート前にルールを決めておけば、ほとんど防げるものばかりです。
決めておくべきことは、勤務時間・仕事内容・責任・休日出勤や残業の有無・給与・賞与・転換のルールです。フルタイム正社員・パートと横に並べて、違いがひと目でわかる形にしておくと安心です。
| 決める項目 | 検討のポイント |
|---|---|
| 勤務時間・勤務日 | 1日の時間を短くするのか、日数を減らすのか。認める勤務パターン |
| 仕事内容・責任 | 正社員として任せる業務、パートとの違い、役職に就けるか |
| 休日出勤・残業 | 命じることがあるのか、どの程度か(土日・繁忙期の扱い) |
| 給与・手当 | 基本給の時間比例の方法、各手当を減額するか・満額か |
| 賞与・退職金・昇給 | フルタイム正社員と同じ算定方法をどう当てはめるか |
| 転換のルール | 誰が対象か、申出の時期、フルタイムへ戻れるか、パートからなれるか |
意外と漏れやすいのがここです。始業・終業の時刻は、就業規則に必ず書かなければならない事項です(労働基準法第89条第1号)。フルタイム正社員の時間だけ書いてあって、短時間正社員の勤務時間がどこにもない…という規程は少なくありません。
勤務パターンが複数ある場合は、そのパターンを規程に盛り込んでおく必要があります。常時10人未満で就業規則の届出義務がない職場でも、労働条件通知書で始業・終業時刻を明示する義務はあります(労働基準法第15条、同法施行規則第5条)。
月給制の人の残業代は、月給を「月の所定労働時間(月によって違う場合は1年間の月平均)」で割って時間単価を出し、それに割増率をかけて計算します(労働基準法第37条、同法施行規則第19条第1項第4号)。短時間正社員は所定労働時間が違うので、この月平均所定労働時間も正社員とは別に計算しなければなりません。
💡 計算例(年間休日120日・年間所定労働日数245日の職場)
・フルタイム正社員(1日8時間):8時間×245日÷12か月=月平均 約163.3時間
・短時間正社員(1日6時間):6時間×245日÷12か月=月平均 122.5時間
短時間正社員の基本給が18万円なら、正しい時間単価は 18万円÷122.5時間=約1,469円です。ところが、うっかり正社員と同じ163.3時間で割ると約1,102円になり、時間外労働1時間あたりの割増賃金(1.25倍)が約460円も少なく計算されてしまいます。
同じ時間単価は最低賃金を満たしているかの確認にも使うため、割る時間を間違えると判定も狂います。「週4日勤務」のように日数で短くする場合は、年間所定労働日数そのものが変わる点にも注意してください。
月給の時間換算の考え方は、最低賃金の確認方法を解説したコラムでも詳しくご紹介しています。
1日6時間の短時間正社員が7時間働いた場合、法定労働時間(1日8時間)の範囲内なので、法律上は割増までは不要です。ただし、超えた1時間分の賃金は支払う必要があり、その扱い(割増をつけるかどうか)も規程で決めておくと迷いません。
また、年次有給休暇は、週の所定労働時間が30時間未満で、かつ週の所定労働日数が4日以下なら、正社員という名前でも「比例付与」の対象になります(労働基準法第39条第3項、同法施行規則第24条の3)。たとえば「週4日・1日7時間」の短時間正社員は、フルタイム正社員と同じ日数にはならないので、付与日数の管理に気をつけましょう。
パートタイム・有期雇用労働法では、通常の労働者より1週間の所定労働時間が短い人を「短時間労働者」と定めています(同法第2条第1項)。呼び方に関係なく、短時間正社員もフルタイム正社員との間で不合理な待遇差をつけないという考え方(同法第8条)を意識して制度を作っておくと安全です。
手当ごとの考え方は、同一労働同一賃金ガイドラインのコラムもあわせてご覧ください。
健康保険・厚生年金保険は、週の所定労働時間と月の所定労働日数がフルタイムの4分の3以上なら、通常どおり被保険者になります。4分の3未満の場合でも、短時間正社員としての要件を満たしていれば、健康保険の被保険者として扱うという考え方が、厚生労働省の通知で示されています。
📌 通知で示されている判断のポイント
(「短時間正社員に係る健康保険の適用について」平成21年6月30日保保発第0630001号)
裏を返すと、規程がない・あいまい・実態が伴っていない場合は、短時間正社員として扱われない可能性があるということです。メリットの面でも、コストの面でも、ここは制度設計の段階で押さえておきたいポイントです。判断に迷うときは、手続きの前に年金事務所や専門家に確認することをおすすめします。
雇用保険は、週の所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用見込みがあれば加入となります(雇用保険法第6条)。
代表的なのは、厚生労働省のキャリアアップ助成金(正社員化コース)です。パートや契約社員などを正社員に転換したときの助成で、この「正社員」には、短時間正社員を含む「多様な正社員」も含まれます。
| 内容(令和8年4月8日時点) | 中小企業の助成額 |
|---|---|
| 有期契約から正社員へ転換(1人あたり) | 重点支援対象者 80万円/それ以外 40万円 |
| 無期契約から正社員へ転換(1人あたり) | 重点支援対象者 40万円/それ以外 20万円 |
| 多様な正社員制度(短時間正社員など)を新たに規定し、その区分に転換した場合の加算 | 1事業所あたり 40万円 |
主な流れは、①キャリアアップ計画を事前に提出 → ②就業規則に転換制度を規定 → ③規程に基づいて転換 → ④転換後6か月分の賃金を支払い → ⑤支給申請です。転換後6か月の賃金が、転換前6か月と比べて3%以上増えていることも要件になっています。
⚠️ 助成金は「年度ごとに中身が変わる」前提で
助成金は毎年度のように金額・要件・加算が見直されます。たとえば正社員化コースでは、令和7年度に「重点支援対象者」の区分ができ、令和8年度には情報公表の加算が新設されました。ネットの記事や去年の知識のまま進めると、要件を満たせないことがあります。
特に、計画の提出や就業規則の改定は「転換の前」でないと間に合いません。転換してから「助成金があるらしい」と気づいても、さかのぼって申請はできないのが一般的です。
また、短時間正社員への転換で勤務時間が減ると、賃金総額の「3%以上増」を満たしにくくなることもあります。助成金ありきで制度を作るのではなく、まず職場に合う制度を設計し、使える助成金を最新の要件で確認する順番がおすすめです。
| ❌ NG対応 | ✅ OK対応 |
|---|---|
| 口約束で「来月から短時間正社員ね」とスタート | 就業規則・労働契約書を整えてから開始 |
| 仕事内容は「今までどおり」とあいまいなまま | 任せる業務・責任、休日出勤や残業の有無を明記 |
| 割増賃金を正社員と同じ月平均所定労働時間で計算 | 短時間正社員の所定時間で別に計算 |
| 育休明けの時短勤務と同じものとして説明 | 法律上の時短措置とは別の雇用区分だと明確にする |
| 転換後に助成金を調べ始める | 転換前に最新の要件を確認し、計画を提出 |
短時間正社員制度は、上手に設計すれば「この職場なら、事情があっても辞めずに続けられる」と思ってもらえる仕組みになります。採用コストや、ベテランが抜けたあとの教育の手間を考えれば、十分に見合う投資になる職場も多いはずです。
大切なのは、「誰のための、どんな役割の制度なのか」を最初に言葉にしておくこと。そうすれば、フルタイム正社員にもパートさんにも説明でき、本人も正社員としての役割を意識して働けます。みんなが納得して働ける形を、一緒に作っていきましょう。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 短時間正社員とは | 無期契約で、時間あたりの処遇がフルタイム正社員と同等の、時間の短い正社員 |
| メリット | 長く働けない優秀な人材の確保・定着、採用の間口拡大 |
| デメリット | 設計があいまいだと「コストは正社員並み、働き方はパート並み」に。管理も複雑に |
| 始める前に | 勤務時間・仕事内容・責任・休日出勤や残業・給与・賞与・転換ルールを書面で決める |
| 計算の注意 | 月平均所定労働時間は正社員と別に計算。有給の比例付与にも注意 |
| 助成金 | キャリアアップ助成金が使える場合あり。要件は年度で変わるので転換前に確認 |
A. 基本給は、所定労働時間の比率に応じて決めるのが基本です(1日6時間なら8時間の6/8など)。手当は、それぞれの支給目的に照らして、時間比例で減らすか満額にするかを決めます。
A. 本人が希望し、制度の対象になるなら可能です。ただし、法律上の時短措置とは別の雇用区分への変更になるので、処遇や「フルタイムに戻れるか」などの条件を書面で示し、本人の同意を得たうえで行いましょう。
A. 就業規則・労働契約にその定めがあり、法定労働時間を超える残業や法定休日の出勤については36協定の締結・届出があれば可能です。ただ、時間の制約がある人のための制度なので、「どの程度まで求めるか」を最初に決めて合意しておくことが大切です。
A. 週の所定労働時間などがフルタイムの4分の3以上なら加入です。4分の3未満でも、規程の整備・無期契約・時間あたり処遇の同等性などの要件を満たせば、健康保険の被保険者として扱うという通知があります。個別のケースは手続き前に確認をおすすめします。
A. おすすめしません。キャリアアップ助成金は、転換前にキャリアアップ計画の提出や就業規則の整備が必要です。先に転換すると対象外になることがあるので、必ず転換前に最新の要件を確認してください。
「うちの職場に短時間正社員が合うのか知りたい」「パートとの線引きをどうすればいいかわからない」「就業規則や賃金規程を見直したい」「助成金が使えるか確認したい」
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制度は「始める前」の準備がいちばんの安心材料です。
※本記事は2026年10月時点の情報をもとに作成しています。助成金の金額・要件は年度ごとに変わります。最新の情報は厚生労働省ホームページをご確認ください。